はじめに もし天使がいるとしたら、それはどんな存在なのでしょうか？ そんな空想みたいなことは
信じないとか、「自分の愛するひとが自分の天使」だとか、絵画や物語の中に登場するぶん
には違和感はないけれど、いるかいないかなんて考えたことはない、という人もいると思います。
なんとなくいるかも知れないと思っても、どんな存在なのかなんて、あまり深く考えていない
人の方が多いかもしれません。
世間ではここ10年くらいの間に、天使ブームがあって、天使についてのさまざまな著作や
画集が出版されたようです。それらを見ると、天使は、古代、中世においては多くの
哲学者によって真剣に考えられ、建築や絵画にその姿が刻まれ、人々の心の中に
とても大きな位置を占めていたのですが、近代になって、あまりかえりみられないように
なってしまったことがわかります。現代になって再び天使に関心が持たれるようになったのは、
現代の危機的な状況のなかで、スピリチュアルな世界観が再び求められるようになったこと
にも関係しているのでしょう。
わたしには、天使の存在をはっきりと証明することはできないし、この目で見たわけでもありません。
でも、見えないものの存在を感じることはあります。そして、天使はきっといるんじゃないか、
と思いながら生きています。 芸術や、人との関わりの中で、純粋、無垢なものに触れると
「天使みたいだ」と感じます。音楽でも詩でも、天使的ななにかに惹かれます。
そんな漠然とした憧れのような思いは、心の中だけの世界なのでしょうか、
それとも現実の世界とかかわっているのでしょうか。
昔から思想家たちが真剣に取り組んできた天使の世界についての学問（天使学）は
今の時代に、リアリティーを持つことができるのでしょうか。
わたしの場合、そのような問いについて考える上で、大きなヒントを与えてくれたのが、
ルドルフ・シュタイナー（1861〜1925）の思想でした。彼は20世紀に天使学の分野で大きな
功績をのこした学者としても知られており、その天使や妖精についての叙述はたいへん
具体的かつ哲学的で興味深いものです。彼の著作の中では、天使といわれる存在たち
が地上の世界にも人間にも大きな関わりをもってることや、神話や伝説の時代のみではなく、
今現在も世界や人生にとってなくてはならない働きをしていることが述べられています。
彼の思想を知ることは、聖書や中世の思想家たちが遺した天使の世界についての膨大な伝承や
考察についての理解を深めることにもつながると思います。このコーナーでは、シュタイナー
の天使論の紹介を中心に天使について書いていきたいと思います。
（’03、3、14）
１、はじめに
参考文献 天使とは何か フィリップ・フォール著 片木智年訳 せりか書房
天使の博物誌 デヴィッド・コノリー著 佐川和茂、佐川愛子訳 三交社
中世思想原典集成３ 後期ビザンチン思想 平凡社
天使たち妖精たち R..Steiner著 西川隆範訳 風濤社
天使と人間 R..Steiner著 松浦賢訳 イザラ書房
人智学の門前にて R..Steiner著 西川隆範訳 イザラ書房
霊的宇宙論 R..Steiner著 高橋巌訳 春秋社
薔薇十字の神智学 R..Steiner著 西川隆範訳 平河出版社
四季の宇宙的イマジネーション R..Steiner著 西川隆範訳 水声社
神秘学概論 R..Steiner著 石井良、樋口純明訳、人智学出版社
宇宙のカルマ R..Steiner著 松浦賢訳
シュタイナー用語辞典 西川隆範著 風濤社
見えないものを感じる力 西川隆範著 河出書房新社
シュタイナーの宇宙進化論 西川隆範著 イザラ書房
神秘学の本 ブックスエソテリカ 18 学研
シュタイナー哲学入門 高橋巌著 角川選書
神秘学講義 高橋巌著 角川選書
現代の神秘学 高橋巌著 角川選書
他
●お勧めの本
・シュタイナーをはじめて読む方には、「人智学の門前にて」（西川隆範訳 イザラ書房）
がお勧めです。 思想の概観が得られます。
・哲学的思考に慣れている方には、「神秘学概論」「いかにして〜」「神智学」などがお勧めです。
・シュタイナーの天使論については、「見えないものを感じる力」が、たいへんわかりやすく書かれて
います。
・「天使たち妖精たち」もすごい本なのですが、或る程度基礎的なものを読んでからのほうが
よいかもしれません。
・高橋 巌氏の「シュタイナー哲学入門」はシュタイナー思想の立場からフィヒテ、ヘーゲル、ゲーテ
などの思想について論じていて興味深いものです。角川選書から出ている高橋氏の著作は
どれもお勧めです。