天使の世界　9．　　　　　　　　　HOME　　　１　２　３　４　５　６　７　８　９　10　11

偽ディオニシウス・アレオパギタ「天上位階論」における天使の世界 ディオニシウスという人は、元アテネの最高裁判所の裁判官で、パウロに感化され、 クリスチャンになった人物です。彼によって書かれたといわれる本が何冊かのこされて いますが、後の時代の研究で、これらは５世紀から６世紀ころに書かれたものであり、 ディオニシウスを名乗った別の人物の著作であろう、と考えられるようになりました。 そのため現在では、この著者は「偽ディオニシウス」と呼ばれています。 偽ディオニシウス・アレオパギタは「天上位階論」のなかで ９段階の天使たちを「上級三隊、中級三隊、下級三隊」に分類しました。 上級三隊は、熾天使、智天使、座天使、中級三隊は主天使、力天使、能天使、 下級三隊は権天使、大天使、守護天使です。 「天上位階論」は西洋世界では、９世紀にヨハネス・スコトゥス・エリウゲナによってラテン語に翻訳され、 広く読まれました。ビザンチンの教父たちや「神学大全」の著者トマス・アクィナス、詩人のダンテ、 ゴシック建築の美学など、キリスト教世界の思想、文学、芸術に大きな影響を与えました。　 その後もカトリックでは、アレオパギタの分類による天使の９つの位階と名称がわずかに修正された かたちで権威あるものとして継承されました。 天上位階論からのメモ ・感覚で捉えることのできる物質的な美しさは全て神的な美を分有しており、 　この世のあらゆる美はわれわれを神へ引き上げる手段となる。 ・すべて存在するものの原因は万物を超えた善、神性であるため、すべての存在　 　は神性の力を分有している。 ・すべての理性や知性をもつ者は神性の知恵を分有している。しかし最も多く神性 　を分有したものが天使と呼ばれる。 ・天使はその生命全体が知性である。 ・天使たちは教父たちを神に属することがらへ引き上げ、なすべき事を教え、正しい道に 　向きなおらせ、聖なる秩序、この世を超えた神秘を、神の代弁者として開示する。 ・神のことば（聖書）は天使たちを通じてもたらされた。 ・位階（ヒエラルキア）の目的はできるだけ神に似ることと、合一することである。 ・位階は神性の根源であるものからの光線を受け入れることができ、与えられた光で、聖なる 　仕方で満たされ、同時にその同じ光を位階の次位のものに惜しみなく放射する。 ・位階とは、できるだけ神に似たものとなるところの、また神から自分に与えられた照明に応じ 　自分の能力に従って神を模倣すべく上昇するところの聖なる秩序であり、知識であり、活動である。 ・すべてのものは、神から出て、神に向かっている。（ロマ11：36） ・聖書には天使たちについて、「車輪、王座、たくさんの顔を持ってる」といったような 　地上の存在のような記述が見られるが、それは形を持たない天上の存在について、 　人間の理解能力に合わせて象徴的な表現で書かれたものである。 偽ディオニシウス・アレオパギタの著作の思想的意義　 ＊これは非常に不完全な、覚え書き程度のものです。ご了承下さい。 ・伝統的キリスト教からもたらされたものと、新プラトン主義的な哲学によって天使の位階の整然とした 　体系を示したこと。 ・新プラトン主義からトリアスの概念を取り入れ、トリアスの概念によって思想を展開したこと。 　トリアスとは、三位一体／存在・力・作用／止留・発出・帰還など、一元的かつ三元的なもののことです。 ・「感覚で捉えることのできる物質的な美しさは全て神的な美を分有しており、この世のあらゆる美 　はわれわれを神へ引き上げる手段となる」という神学的美学。 ・「神秘神学」「神名論」において、万物の原因であり、万物を超えたものについての、 　肯定神学と否定神学を説いた。 　万物の原因ということにおいては、「神は善であり、存在であり、生命、知恵、力である」というように 　肯定的に述べるのが肯定神学です。 　一方、万物を超えているということにおいては、「‘それ’は感覚によってとらえられる何者でもなく、 　魂でも、知性でもなく、存在でも、永遠でも時間でもない」というように、否定的に述べることしか 　できないのが否定神学です。 ・人が知識の限界を超え、あらゆる知識を超えた「超存在」を「無知」によって知ることを「超脱」 　（エクスタシス）という言葉で説明した。 ・「浄化」、「照明」、「完成」を経て神性の根源に上昇する「神化」の段階的過程について述べたこと。