人がバラを好むのは、

　バラが、私たちの睡眠中に、

　私たちの幼児期の最初の思い出を

　受け取ってくれるからなのです。

　そのことを知らなくてもそうなのです。

　　　　　　　　　　　　ルドルフ・シュタイナー「遺された黒板絵」（高橋巌訳）より

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　シラー（1759〜1805）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

人類はわれらの遊星・地球にとっての高次の感覚器官である。

人類は地球を上なる世界と結びつける神経であり、上天を見上げる眼である。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ノヴァーリス（1772〜1801）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

学問と芸術を所有する者は宗教をも有する。学問も芸術も所有しない者は宗教をもつがよい

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゲーテ（1749〜1832）

ロレンツォ・ディ・メディチと共に言いたい、

別の人生を願わない人はすべて、この世においても死んでいるのだ、と。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　ゲーテ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

人よ、本質的なものとなれ。なぜなら世界が滅びるとき偶然は滅び、本質的なものだけが生き続けるからだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　アンゲルス・シレジウス

万物は、原因としての美と善に憧れている。存在するものの中で、美と善にあずからないものはない。

万物は美にして善なるものから出て、美にして善なるものにおいて存在し、

美にして善なるものに向かって還帰する。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ディオニシオス・アレオパギテス

段階や観点がありますが、宇宙の秘密に魂を開くような印象を知覚できるようなもののみを芸術作品と

呼びうるのです。」　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　RudolfSteiner「四季の宇宙的イマジネーション」（西川隆範訳）より

ハーモニーとメロディーは、人間の最奥の本質をゆさぶり、この世が与えることができない

純粋な喜びと崇高な精神性の振動で人間の最奥の本質を震わせます。

絵画はアストラル体（魂体…引用者注）に語りかけます。音の世界は人間の最も内面に語りかけます。

秘儀に参入していない人間には、人間の故郷である神界はまず音楽の中で与えられるのです。」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　RudolfSteine「音楽の本質と人間の音体験」（西川隆範訳）より

　「『人はこの世に生まれてくる以前に、すばらしい音楽を聴いたことがある』と詩人ヘッベルは言い、またボードレールは永遠の

美の形象を、目眩を催すばかりに濃厚な『前世』（la vie antérieure）の幻に描き出している。こういう一群の芸術家においては、

この生まれぬ前に見た光景、への切ない思慕と、それをいかにもして地上的現実のうちに再び取り戻そうとする努力とが

芸術活動の根源をなすのである。そしてここにレールモントフの抒情の第二の源泉を我々は見る。純粋に芸術家としての

レールモントフの本分は、やはり天上の歌声、生まれる前に聴いたこの世のものならぬ歌声の探求以外のなにものでもなかった。

　超現実的な久遠の美と調和の世界は、レールモントフのような詩人にとってはたんなる幻想や理想ではなく、むしろそれこそ

本当の現実なのである。彼ははっきりそれを‘記憶’していた。どうしてそれを疑うことができよう？現にこの耳で聴き目で見たのだ。

ひとが何と言おうとも、それはどこかに確かにあるはずなのである。たとえ自分でそれを否定しよう、記憶から拭い去ろうとしても、

その面影は執拗に詩人の意識に取憑いて、日夜を分かたず彼を責めさいなむのだ。そのために彼は、ある時は昂奮し、歓喜し、

またある時は失望し、絶望した。この記憶の実体をわが手に掴むことさえできたなら！それは直ぐそこに、手をちょっと伸ばしさえ

すれば届きそうな近くにあるようにも感じられたし、そうかと思うとまた無限に遠い地平線のなかに在るように思われもした。

それが彼を並はずれた例外者、詩神（ミューズ）に『選ばれた人』の光栄の位置に据えるとともに、地上にあってはこの上もなく

不幸な人にした。

　前世の記憶ということは要するに一つの『神話』（ミュトス）にすぎない。だがこのミュトスによって、ひとはレールモントフの叙情性

の根源を解明しえるばかりではなく、同時にこの暗い謎のような人間の悲劇性の秘密をも解明できるのである。プラトンは、

哲学精神の根源として、有名な『憶起（アナムネーシス）』説を提示した。人間の魂は誰でもこの世に生まれてくる以前に、五彩に

煌（かが）やく真実在の実体を観照しているのだが、彼らのほとんどすべては地上に誕生すると同時にその記憶を完全に喪失して

しまう。その失われた記憶を魂のうちに目醒めさせて行くことが哲学である、という。近代の合理主義的思想家はこれをプラトンの

アプリオリズムとか『神話』とかいって簡単に片づけてしまうのだが、そういう人々には本当に深い意味での詩的感覚というものが

わかっていないのかもしれない。少なくともレールモントフや、彼と同じ精神的世代に属する芸術家にとっては、プラトン的

『憶起』は決してたんに説明の便宜のためのたとえ話ではない。それが文字通り本当の現実なのである。」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井筒俊彦「ロシア的人間」（中公文庫）より

見方を変えさせ、実存の深層にひそむ未知の次元を開示して見せた。この意味で、十九世紀のロシア文学の諸作品は、

どんな専門的哲学書にもできないような形で、私に生きた哲学を、というより哲学を生きることはどんなことであるかを教えた。

今となってみれば、ただそれだけのことだった。だが、それだけでいいのだ。」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井筒俊彦「ロシア的人間」あとがきより