旅行中いつもスケッチをするわけではないのですが、この時は、サハラ砂漠でカメラに砂が

入って故障してしまったので、スケッチをすることにしました。

現地の人たちの似顔絵も描きました。レストランのウエイターを描いたらすごく喜んでくれて、

来るお客来るお客に「これは日本人の画家が描いてくれたんだ。どうだい、そっくりだろ！」

と得意そうにその絵を見せていました。絵を描いていると人だかりが出来て「わたしの絵も描いてくれ」

という人や、「いや俺が先だ」と親指で自分を指して真顔で主張する男などもいて、結局何人かの

似顔を描くことになります。向こうの人の興味の持ちようには熱烈なものがあります。

カサブランカから来た３美神のように美しい女子大生３人組の似顔絵も描かせてもらいました。

Fesの旧市街でミントティーを飲んでいたら、見知らぬ人から「きみはMoulayYacoubで絵を描いていたね。

わたしの似顔を描いてくれないか？」と呼び止められました。ホアン・ミロに似たおじさんでした。

わたしは筆が遅い方で、かなり時間がかかってしまいましたが、おじさんは辛抱強く待ってくれました。

おじさん：「レオナルド・ダビンチ、ミケランジェロ…」

わたし：「はあ？」

おじさん：「この絵はすばらしい。TOP OF THE WORLD !」

おじさんは何か勘違いしていたのだと思いますが、嬉しかったです。

旅行で描いた似顔絵はみんな人にあげてしまい、手元には残っていません。

MoulayYacoub

Fesの北、約２２kmにある温泉地です。坂道に沿っていい感じに古い、

日光に当たって風化したような建物が並び、とても気に入りました。

西欧風にイスラム風が混じった2〜4階建てのビルが多かったのですが、

急な坂道に建てられているせいか、変わった構造の建物が多く、それらを見て

歩くのが楽しかったです。絵に描いた建物は極端に奥行きがないのですが、

後に箱を付け足すようにして部屋がついているのかもしれません。画面右下の扉は

モスクの出入口で、お祈りの時間が終わると、伝統的な衣装を身につけた男達が

大勢出てきました。

MoulayYacoub　タイル張りのベランダのあるホテル

MoulayYacoubは温泉保養地であるとともに、イスラムの聖地でもあります。そのためか

Fesよりもさらに、イスラム教の価値観を堅く守っている人たちが多いという印象を受けました。

この絵を描いているときも、沢山の人が集まってきたのですが、

「アラー イラー ハ イッラーラー、モハメッド アラー ソーロー ラー(アラーは偉大なり、

モハメッドはアラーの使徒なり)」という、コーランの言葉を言うこととを半ば強要してくる人や、

風景画に女性の姿を描くのはよくない、とわたしが描いている絵を指でこすって消そうとする人（！）

がいました。絵がかなりゆがんでしまいましたが、この建物は、緑の柱とアーチ、タイル張りのベランダ

がとても気に入りました。こんなホテルに一週間くらい、何をするでもなく滞在してみたいものです。

時間の止まったCafe

Fesの細い路地の奥にあった古いCafe。近所の人だけが利用するお店だからなのか、

入口には看板らしきものがありません。中は薄暗くひっそりとしており、絨毯の上に

座ってお茶を飲むようになっています。柱や梁には手の込んだ漆喰細工が施され、

壁には古いポスターや国王の肖像画などが貼られていました。

お客さんたちは男性のみ。何時間もタバコをくゆらしたり、カードゲームに興じたり

しながら一日を過ごしているようでした。

Fesの路地

描いていると、近所の子どもたちが集まってきました。TVやパソコンゲームなどの娯楽が

あまりないせいでしょうか、絵を描いている様子をすごく興味を持って見てくれます。

かなり長い時間かかったのですが、最後まで見ていて、出来上がると「バンザーイ」と、

跳び上がって喜んでいました。

　　　　　　　　　　　　　＊　　　　　　　　　＊　　　　　　　　　　　＊

モロッコでのスケッチは絵としては未熟な点が多く、見ていただくのは恐縮なのですが、

風景としては面白いのではないかと思い、紹介することにしました。